2019-07-08

「結婚の自由をすべての人に」意見陳述の全文

 「結婚の自由をすべての人に」第2回期日における、田中・川田原告の意見陳述をここに再録しておきます。
 最初に「三豊市」は伏せるという取り決めにしていたので書類上は外したバージョンを提出したのですが、口頭ではそれを入れて読んでもいいと言われたのでそちらのバージョンを公開しておきます。
 これは、三豊市がパートナーシップ制度の導入を決めてくれたことに対する、ぼくらなりの敬意です。






 ぼく田中昭全は、香川県の三豊市というところに生まれ育ちました。地方は保守的だと俗に言われる通り、「普通」であることが何より求められる場所です。「波風を立ててはいけない」「目立つようなことをしてはいけない」「空気を読んで行動しなければいけない」そんな場所で、自分が他の人とは違うと気がついた時の、暗澹たる気持ちを想像してみてください。
 小学校高学年生の頃、ぼくは同性愛者であることを自覚しました。その頃は、テレビでも差別的な取り上げ方がまかり通ってました。バラエティ番組では同性愛者のキャラクターが決まって笑い者にされ、自分もこういう風に笑われる存在なんだと思うと、誰かに相談することなんてできません。そのせいで、自殺を考えたことすらあります。「どうせ誰にも言えないのなら、一生ひとりぼっちなら、このまま黙って死んでしまった方がいいんじゃないか?」そんな風に思い悩んで、眠れない夜もありました。
 多感な思春期を、それでもどうにかこうにか生き抜きました。23歳の時には、当事者が集まるコミュニティに勇気を出して参加しました。同じように悩んできたLGBTの仲間たちが優しく迎え入れてくれて、この世界に同性愛者はぼくひとりきりじゃなかったんだとやっと思えるようになりました。しかし、生涯のパートナーが見つかったのはそれから7年も後のことです。
 パートナーの川田有希とは、クリスマスパーティーで出会いました。不思議なことに共通の友人が何人も居て、運命的なものを感じました。すぐに同棲を始めて、今年でもう12年です。周囲の友人や互いの両親も公認してくれてます。
 2013年。生まれ故郷の三豊市に、これからずっと暮らす築40年の中古住宅を買いました。ふたりの帰る家ができたことは、何にも勝るよろこびでした。しかし同時に、ぼくとパートナーは法的な家族じゃないという事実が、重くのしかかるようになりました。
 ぼくとパートナーは8歳の年齢差があります。年齢の順番でいくなら、家の名義人であるぼくの方が先に死にます。その際、この家は彼に相続できるんだろうか?そう考えると、不安な気持ちに苛まれます。元気で若いうちはまだいいんです。でもこれから年齢を重ね、50代60代と進むにつれ、その問題と直面せざるをえないのは目に見えてます。歳取って身体が衰えてから慌てるくらいなら、若い今のうちにどうにかしておかなくてはと思い至りました。
 今年の2月には婚姻届を出しました。ぼくとパートナーの関係性を考えた時、現行の制度でいちばん近いのが「婚姻」だったからです。ふたりを長らく見守ってくれている大事な友人たちに、結婚の証人を頼みました。婚姻届を用意している間は、ずっとワクワクしてました。だって、みんなが祝福してくれてるんだもの。結婚できない方がおかしいわけです。すでに結婚状態になって12年という歳月も証拠としてあるわけですから。その歳月は、何があろうとも覆らない。
 しかし無慈悲にも、その婚姻届は突き返されました。期待してしまった分、辛かったです。
 また同時に、ぼくらはこの社会から居ないことにされ続けているんだということを改めて思い知りました。大人になって、自分の望む生き方ができているにも関わらず、社会だけがぼくらを家族と認めない。これ、人権侵害以外の何物でもありませんよね?
 それだけじゃないです。2017年に国連が出した「同性愛者の死刑を非難する決議」を覚えてますでしょうか?同性愛者であるというだけで国民を死刑にする国を、国連は非難するための決議を取ったのですが、なんと日本はそれに反対票を入れたのです。他の国の話だから、国内の当事者は傷つかないとでも思ったんでしょうか?『同性愛者は死刑になっても仕方がない』と暗に国から言われたも同然なんですよ。相当、ショックでした。
 2001年のオランダから、今年始まったばかりのおとなり台湾まで。18年の間に、29ヶ国で同性婚が実現しています。ぼくらは国が動いてくれるのを、ずっと待ってました。でも一向に、法制化される気配が見えません。「時期尚早」なんて言葉でお茶を濁す議員もいますけど、18年ですよ。世の中の何を見てたんだと言わざるを得ない。パートナーシップ制度を始めた地方自治体の方がまだ、真っ当な仕事をしています。
 国会議員の方たちにおかれましては、いい加減ちゃんと仕事をしてください。ぼくらを家族と認めても、国が滅びることはありません。すでに同性婚を導入している29ヶ国がその最たる証拠です。少子化に拍車なんてかかりません。すでに子育てしている同性カップルを家族と認めて、多様な家族の在り方をサポートする方が少子化の歯止めにはなるんじゃないでしょうか?国際結婚している同性カップルに配偶者ビザを与えてください。今この瞬間にも、引き裂かれて辛い思いをしている同性カップルがあります。この国でぼくらが安心して暮らせるための法制化がなされない限り、この声を上げることは止めません。


2019年7月5日 田中昭全




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