2023-05-28

田中昭全選曲のプレイリスト「プライド・クルーズ大阪2023」のライナーノーツ。


 「東京レインボープライド2023」マリフォーフロートの選曲が好評だったのもあり、5月28日に大阪で行われた「プライド・クルーズ大阪2023」の選曲を依頼されました。こちらは、「プライドセンター大阪」の1周年記念を祝して行われたイベントです。
 わたしたちも招待を受けたのですが、残念ながら予定が合わず現地に赴くことができませんでした。残念なり。
 今回もこちらにライナーノーツを残しておきます。興味がある方は参照までに。



◉田中昭全による「プライド・クルーズ大阪2023」プレイリストとライナーノーツ◉



(1)Go West - Pet Shop Boys
 ペット・ショップ・ボーイズは言わずと知れたイギリスのシンセポップデュオ。1981年から活動しており、ヒット曲も多数。その中でも、いちばん印象的なのはこの「Go West」じゃないだろうか。しかしこの曲、彼らのオリジナルではない。1979年にヴィレッジ・ピープルというグループが発表したディスコソングのカバー。ヴィレッジ・ピープルはゲイを公表しているメンバーが居たことでも有名だが、ペット・ショップ・ボーイズのニールも1994年にゲイであることをカミングアウトしている。
 歌詞で「西へ行こう」と連呼しているのだけど、この西がどこを指すかと言えば同性愛者に寛容であったアメリカ西側のサンフランシスコだ。この曲をヴィレッジ・ピープルが発表した後に、世界にはHIV(ヒト免疫不全ウィルス)という暗雲がたち込める。ペット・ショップ・ボーイズがカバーしたのは、その渦中である1993年。原曲のあっけらかんとした明るさとはまた違って、どこか哀愁感があるように思うのはわたしだけだろうか。
 ちなみにこの曲は、プライドセンター大阪の村木さんによるリクエスト。わたし自身は、ものすごく久しぶりに聴いた。ペット・ショップ・ボーイズはちょうど、2020年に発表された「Wedding In Berlin」という曲にハマっていたところだったので、同じアーティストの過去作というところで興味深いものがありました。
こちらのプレイリストも参照ください。





(2)Girls And Boys - Blur
 ブラーもやはり、イギリスのロックバンド。奇しくも「Go West」が発表された次の年(1994年)に発表されたのがこの「Girls And Boys」。
 歌詞は、デーモン・アルバーンらしい婉曲表現が多用されている。「女の子は女の子になる男の子がすきな男の子 / 女の子みたいな男の子っぽい女の子 / 男の子みたいな女の子っぽい女の子 / いつだって君がほんとに愛せる人じゃなくちゃ」今の言葉でいうなら、ジェンダーレスとかジェンダーフリーについての歌なんじゃないかな。




(3)Born This Way - Lady Gaga
 言わずと知れたLGBTQ+アンセムソング。レディ・ガガが2011年に発表した曲。これ以上ないくらい、歌詞の中ではっきりと肯定してくれている。「わたしはわたしの道を行く中で美しい / だって神様は間違わない / わたしは正しい道にいる / わたしはこのように生まれたんだ / 後悔から自分自身を隠さないで / 自分自身を愛せればそれでいい / 他の道なんてない」「ゲイでも ストレートでも バイセクシュアルでも レズビアンでも トランスジェンダーでも 黒人でも 白人でも 黄色人種でも ヒスパニックでも 東洋人でも 関係ない / わたしは生き抜くために生まれたんだから」





(4)Free Yourself - Jessie Ware
 ジェシー・ウェアはイギリスのシンガーソングライター。2020年に発表したアルバムが評価され、なおかつそのミュージックビデオに多様な人たちが起用されているところから、クイアたちのディーバという印象が強くなった。そして昨年発表されたこの曲は、まさに『自分らしく生きること』を誇らしく掲げたアンセムとなっている。
「あなたには名前がある 数字なんかじゃない / 並はずれた色を持っている / 物影にかくれてちゃダメ / 自分を解き放って あの山のてっぺんを目指して突き進まなくちゃ / 自分自身を喜ばせなくちゃ / そんなにいい感じなら やめちゃダメ」

こちらのプレイリストも参照ください。






(5)I Will Survive - Gloria Gaynor
 「恋のサバイバル」という邦題が付けられた1978年のヒット曲。多くの人がカバーしている名曲。失恋から立ち直ろうと勇気を奮い起こさせる歌詞は、後にHIVが席巻した世界でも応援歌となった。「わたしは生き抜いてやる / 愛し方を知っている限りわたしはまだまだ生きられるはず / わたしはわたしの人生を生きることに捧げてきた / すべての愛を与えてきたんだから」





(6)I'm Coming Out - Diana Ross
 ダイアナ・ロスによる、まさに「カミングアウト」についての歌。しかし、プロデューサのナイル・ロジャースは、歌手のダイアナ・ロスにゲイをテーマにした歌だとは伝えなかった。実際、ダイアナ・ロスがレコードレーベルを移籍するタイミングで制作された曲だから、『出て行く』という意味ではまさに合致したわけで。
「私は出て行く / 世間に知ってもらいたい / 表明しなくちゃ / 新しい私で出て行くの / 生きなきゃならないから / 私は与えたい / 完全に前向き」「この時が来た / 私はやる / あなたが知らないようなこと」「私はうまくやり遂げる / この殻を破って飛び出す時が来た」





(7)Pose - MRSHLL
 MRSHLLは韓国にルーツがあるアーティスト。アメリカはカリフォルニアの郊外に生まれ育ち、韓国の国民的オーディション番組に出演したことから歌手としての本格的なキャリアが始まる。2015年にはメディアを通してゲイであることをカミングアウト。ワールドワイドな活動を行いながら、ニュートラルに自身のセクシュアリティを楽曲に反映させている。
 この曲はMRSHLLがLGBTQコミュニティのために書いたもの。自分らしく生きることの大切さを歌っている。サブリミナル効果で「君も僕もゲイ!ゲイ!ゲイ!」って聴こえるように作った箇所があるそう。
こちらのプレイリストも参照ください。





(8)Strangers - Halsey
 アメリカの歌手ホールジーと、バイセクシュアルを公表しているローレン・ハウレギによるデュエットで、女性同士の恋愛について歌われている。かつては恋人関係にあったけど、片方がレズビアンであることを受け入れられなくて、結局最後には別れてしまった恋人たちについての歌。
「あなたがわたしに言ったことを思い出す / わたしたちは恋人同士じゃないって / わたしたちは他人同士だって / 同じようにひどく飢えていた / 触れてもらうため 愛されるため 何もかも感じるために」「一線を越えてしまった / 正気を失ったのに違いない / 一人きりで目を覚ます時 / わたしはあなたの肌を思っている」





(9)Womxnly 玫瑰少年 - Jolin Tsai 蔡依林
 ジョリン・ツァイは台湾のポップ歌手。この歌は、「女っぽい」という理由で2000年に暴行を受けて亡くなった15歳の台湾の少年について歌っている。
「トゲのないバラはどこにある? / 美しくなることが最強のリベンジ / 美しく咲き誇ってこそ反撃だよ / 誰かのために 自分を変えないで / あなたは貴方 もしくは貴女 どっちでもいい / 誰かが心を込めて愛してくれるから」
 民主的な決断で2019年に同性婚が始まった台湾でも、過去にはそういう世界だったのだと改めて思い知らされた。
こちらのプレイリストも参照ください。





(10)Cure For Me - Aurora
 世界保健機構(WHO)は1991年に国際疾病分類から「同性愛」を除外した。このことにより、治療と称しては拷問まがいの治療を受けさせられていた同性愛者たちは、長い不遇の時代をようやく終えることになる。しかし、根強い差別意識は21世紀になった今でも続く。治療ができると信じ転向療法(コンバージョン・セラピー)の施設に我が子を送り込む親さえ居る。
  オーロラは、若者の間でカリスマ的に支持されているノルウェーのシンガーソングライター。自身もバイセクシュアルであることを公表している。この曲はまさにそれをテーマに扱い、「わたしに治療なんか必要ない」と何度もくり返し歌われる。
こちらのプレイリストも参照ください。





(11)First Time He Kissed a Boy - Kadie Elder
 このアーティストについてはほとんど何も知らない。ある時、YouTubeのおすすめ動画に少年同士がキスしているサムネイルが表示された。クリックして聴いてみると、切ない歌詞が歌われていて良かった。同性をすきになる人の多くは、自分が何者か分からないまま身近な同性の友人に恋をしてしまう。そうして一時的に心を許しあったとしても、その後が続かない
。自分にもそういう経験がある。ぼくはゲイとしてのアイデンティティが確立したけど、相手の方はそうならなかった。そういった思春期の、甘酸っぱい青春が歌われている。
「彼が男の子に初めてキスをした時 / 彼は知るよしもありませんでした / 彼らが勝手に言ったからごまかしている / とても寒い」「抑えている中の幽霊 / 彼を閉じ込めた / 彼の生のすべてを」「迷って、迷って、迷って」 





(12)You Need To Calm Down - Taylor Swift
 世界で活躍するアーティストの多くが自分の政治信条を公表している中、テイラー・スウィフトは長らく政治的発言を避けて来た。しかし、トランプ政権下であった2018年になってようやくその政治信条を公表するに至った。LGBTQ+や有色人種・女性に対する平等な権利が守られない現状に、はっきりと「NO」を突きつけたのだ。それを確かなものとして、2019年に発表されたのがこの曲だった。
 ポップなテイストのミュージックビデオには、LGBTQ+関連のシーンで活躍しているタレントやアーティストを総動員した。また歌詞は、インターネット上でヘイト発言を投げつける匿名アカウントや、女性蔑視の男たち、アンチLGBTQ+の集団に対して「落ち着いて!」と歌われている。
「あなたとりあえず座ろうか / そして平穏を取り戻して / すべての人に対して恨みごとを投げつける衝動をどうにかしようか / ゲイを影に追いやっても減るもんじゃないでしょ」「だからさあ、落ち着いて /
 騒ぎすぎ / はあ?としか言えない / 私の(彼の、私たちの)ガウン踏むのやめてくれない? / とにかく落ち着いて」





(13)Honey - Kehlani
 多様な人種のルーツを持っているアメリカのシンガーソングライター・ケラーニ。この曲はかつて付き合っていたガールフレンドのことを歌っているそう。原曲はシンプルな弾き語りだけど、今回はリズミカルなGeoffroによるリミックスバージョンで。
「世界にはかわいい女の子がいっぱいいる / だけどわたしはあなたとこの場所にいる / 境界線を外れて染まったの / わたしは見つけにきたんだ / この情熱はあなたに向かう運命だった / あなたの気持ちは痛み続けるでしょう / あなたとはるか遠くまで飛んでいくわ」





(14)Got No Choice - Brooke Eden
 カントリーシンガーのブルック・エデンによる、女性に恋をした女性のラブソング。保守的なカントリー音楽のシーンにおいて、LGBTQ+がテーマの曲を発表するのはよっぽど勇気の要ることだった。それを、新しい世代のシンガーは次々とやってのけている。その中の1曲。
「適切なものにまだ出会っていなかった / わたしには選択の余地はない / あなたを愛すること以外は」





(15)Green Eyes - Alro Parks
 アーロ・パークは、バイセクシュアルであることを公表しているイギリスのシンガーソングライター。この曲も、10代のうまくいかなかった恋愛について歌っている。相手が同性であるという理由で、誰にも公表できなかった恋愛について。
「わたしたちがなぜ2ヶ月も続いたのかもちろん知っている / 人前ではわたしの手を握ることができなかった / あいつらの目はわたしたちの愛をジャッジし血を求めているのを感じた / わたしは決してあなたを責めることなんてできない ダーリン / いくばくかの人たちはあなたを泣かせたいから / でもあなたはあなたがどのように感じているかを信じなければ / そして輝くの」
こちらのプレイリストも参照ください。





(16)Secrets - Mary Lambert
 同性婚アンセムとなったマックル・モアとライアン・ルイスの「Same Love」。そのサビ部分を歌っているのが、レズビアンであることを公表しているシンガーソングライターのメアリー・ランバート。あのパートを転用して、独立した「She Keeps Me Warm」という女性同士のラブソングを作っている。彼女の曲ではそれが有名なのだけど、わたしはこちらの曲の方が明るくてすき。
「わたしはストレートに考えられないし めっちゃゲイ」「もし世界がわたしの秘密を知っていようがどうでもいい / それが何だって言うの?」 
こちらのプレイリストも参照ください。





(17)Fuck You - Lily Allen
 前回のプレイリストにも星野源の「Same Thing」にこのタイトルの言葉があって、プレイリストに入れるのは気が引けていたのだけど(でも結局入れた)、今回もまさにそのまんまなタイトルの曲を最後に。
 LGBT法案をめぐる連日の報道に、うんざりしてます。「差別」を「不当な差別」と言い換え、まるで「不当ではない差別」があるかのように印象操作し、ネットのヘイトを真に受けて「性自認」を「性同一性」と言い換えたりして法案を作ろうとしている醜悪さ。果ては「マジョリティに配慮した法律を」とか言い出す始末。「人権」も「法の下の平等」も「構造的差別」も、何も分かっていない政治家がわたしたちに関する法律を作ろうとしていることの疑問と不安と不信感と恐怖。「骨抜きにできた」とか堂々と言っているのに、誰も叱咤しない惨状。
 この曲は、そんな人たちに向けたぴったりのロックンロールだと思います。
「内側を見て / あなたのちっぽけな心の内側を / ちゃんと見てよ 今 / だってインスピレーションなんかわかないもの / うんざりしてるの / あらゆる憎しみを抱えてるあなた / ゲイであることは良くないって言うけど / それって普通に悪役ですよね / あなたそのまんまのレイシストですよ / あなた中世ですよ / めっちゃファッキューだわ / わたしたちはあなたがしてること大きらいなんで / そしてあなたのお仲間もきらい / もうこっちに連絡してこないで / あなたの言葉が翻訳できないんで / もう時代遅れなんですよ / もうこっちに来んな」
「あなた 心が狭いことが快感になってません / あなたのお父さんみたいになりたいの? / あなたはそれにならって承認されたいのね / いや、あなたが見つけたそのやり方違うでしょ / そんなに憎みまくって生きるのほんとに楽しいんですか? / だってあなたの魂があるべきところには穴が空いてるじゃん / あなたももうどうしようもないんでしょ? / ほんとキモイです / めっちゃファッキューだわ / わたしたちはあなたがしてること大きらいなんで / そしてあなたのお仲間もきらい / もうこっちに連絡してこないで / あなたの言葉が翻訳できないんで / もう時代遅れなんですよ / もうこっちに来んな」
「あなたはわたしたちが戦争へ行かなくちゃいけないって言ってるけど / あなたはもうすでに戦争してるじゃない / あなたみたいな人は殺されなきゃ分かんないんでしょ? / 誰もあなたの意見なんか望んでないです / めっちゃファッキューだわ / わたしたちはあなたがしてること大きらいなんで / そしてあなたのお仲間もきらい / もうこっちに連絡してこないで / あなたの言葉が翻訳できないんで / もう時代遅れなんですよ / もうこっちに来んな」
 思わず全部の歌詞を訳してしまいました。





*YouTubeにも再生リストを作りました。ぜひご活用ください。


田中昭全による「プライド・クルーズ2023」プレイリスト (YouTube版) https://youtube.com/playlist?list=PL7Rvj0LnnmVp3jh4QIkKGhjagmF9qmcqg


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