2025-06-05

田中昭全選曲の仕事「東京プライド2025マリフォーフロート」用


*先日、多度津町のTetugakuyaで動画と写真を撮影させていただきました。店主の杉原さん、ありがとう。



 今年も6月が来ました。プライド月間です。LGBTQ+についての理解啓発を特に取り組もうと呼びかける国際的な記念月間です。とはいえ、わたしはLGBTQ+の講師やアドバイザーなどを日常的にやっているので、1年中プライド月間みたいなものですが。
 今週末の「東京プライド2025」には、川田中家(マイナス2。残念ながら犬たちはお留守番)で参加する予定です。 同性婚を求めて活動している社団法人「Marriage For All Japan(略してマリフォー)」のブースやらイベントやらパレードやらに参加させていただきます。
 今年は早速、パレードの時に流す音楽の選曲をさせていただきました。当日のお楽しみに……としてもいいのですが、せっかくなので事前に聴けるようにしておきます。何より、パレードを一緒に歩く人たちが覚えて口ずさんでもらえたらいいかなと。
 YouTubeにプレイリストを公開しているので、よかったら聴いてみてください。



◯東京プライド2025マリフォーフロート選曲◯

https://youtube.com/playlist?list=PL7Rvj0LnnmVq7wlZCcTn6co7u53wMxoL2&si=pdlWiShz97_DW0uu







●田中昭全による東京プライド2025マリフォーフロート用のプレイリストとライナーノーツ●


(1)Stella Jang(스텔라장) - Colors
 派手なOvertureがすきな人には大変申し訳ない。パレードの最初からテンション上げめの曲にしてもいいのだけど、歩くのは長時間だし、もうちょっと地に足が着いているようなところから始めてもいいんじゃないかというのがわたしのコンセプト。
 Stella Jangは韓国のシンガーソングライター。アカペラの多重録音で作られた作品が何曲かあり、わたしのDJでも冒頭にかけることが多い。これもそんな1曲。
 「あなたの色は何?わたしは知りたい。わたしは赤かもしれない。あるいは黄色かもしれない。青、紫、緑にピンクに黒に白。わたしはあなたがすきなどの色にでもなれるよ。」そんな歌詞。





(2)Stella Jang(스텔라장) - Orange, You're Not a Joke to Me!
 同じくStella Jangのこの曲は、1曲目の「Colors
」で歌詞にオレンジ色が取り上げられなかったことをファンの人たちが残念とコメントしていたのを見かけてできた曲らしい。わたしもオレンジ色は好きなので、そうコメントした人たちの気持ちがとてもよく分かる。
 結果、オレンジ単独の曲が生まれたわけで。この経緯まで含めて、ちょっと面白い。
 ご存知のとおり、LGBTQ+を象徴するレインボーフラッグは、まさに赤、オレンジ、黄、緑、青、紫の6色でできているわけで。1曲目を聴いた時に物足りないと思った違和感はそこにあったのだと思う。





(3)HONNE - Me & You 
 1曲目で地に足を着けたかったとか言いながら、3曲目にしてもう宇宙にまで飛んでいる。飛躍しすぎかしら。冒頭に聴こえてくるのは有名な宇宙飛行士の名言。
 予期せぬ運命の出会いを経て、パートナーとの幸せな生活に舞い上がっている様子を描いた歌詞。MeとYouで語られるので、どんなカップルにも当てはまる。
 わたしの大すきなTom Mischがギターを弾いている。
 ちなみにロンドンを拠点に活動しているこの曲を作ったアーティストのHONNEは、日本文化が大すき過ぎて、自分たちの名前に「本音」と付けたらしい。





(4)James Alyn - Show Me Your Love
 同性婚が実現しているタイはバンコクのシンガーシングライターJames Alynの曲。歌詞の内容自体はLGBTQ+と関係ないのだけど、サウンドがいかにもシティポップで愛の
告白を歌っている。「あなたの愛をわたしに見せて」。ちなみにこちらでは火星を目指している。何故に?

 



(5)星野源 - 喜劇
 アニメ「SPY×FAMILY」は楽しくみていた。ワケアリの人たち同士が出会い契約として家族になるのだけど、そのささやかな暮らしに幸せを見出し、最終的には本当の家族になっていくというお話。この曲を当時は主題歌として何気なく聴いていたのだけど、改めて聴くと歌詞がわたしたちにも当てはまることに気がついた。
 「生まれ落ちた日から よそ者」「普通のふりをした あなたと」「私の居場所は作るものだった」「あの日交わした 血に勝るもの 心たちの契約を」「どんなことがあったって 君と話したかったんだ」「あの日ほどけた 淡い呪いに 心からのさよならを」「どんな日も 君といる奇跡を」「ありがとうでは 足りないから 手を繋ぎ」……歌詞を全文掲載したいくらい。
 わたしたちのことを歌ってくれたのかしらと勝手に思うのは自由だよね。





(6)星野源 - 2 feat. Lee Youngji
 どれだけ星野源がすきなのかと思われるだろうけど、こちらも歌詞が大変素晴らしかったので。星野源の最新アルバムは多言語らしく、こちらも韓国のラッパーLee Youngjiとのコラボレーション。英語と日本語と韓国語の歌詞が1曲の中に詰め込まれている。
 「1人の2人が集まって 強力な独りになるということ」この一節だけで、名曲。
 火星を目指してたと思ったら、異星から舞い降りちゃった。地球にUターンしたのか。
 公式の動画がなかったので、ファンの方が作った訳詞動画を。

 



(7)Bronze Avery - Only U
 ようやく本人がクイアなアメリカのシンガーソングライター。男を取っ替え引っ替えなミュージックヴィデオだけど、タイトルは「Only U」。「あなただけがこれを感じさせてくれる」





(8)Porij - My Only Love
 イギリスの新世代バンドPorijの曲。ミュージックヴィデオには、同性カップルが何組も出てくる。
 「何が起ころうともそれだけで十分だっていつも言うだろう これが永遠になるかは分からないけど 今は知っておいて きみはわたしの唯一の愛」





(9)Baby Queen - We Can Be Anything
 ロンドンを拠点に活動する南アフリカ出身のアーティスト。自分のセクシュアリティは定義しない(Questioningかしら)とカミングアウトしているそう。
 この曲が面白いのは、歌詞が台詞の対話で成立しているところ。1本の短編小説でも読んでいるかのよう。
 「この世界に意味なんてない」と絶望に暮れて泣いているわたしに、ある女性から「敗北主義者にならないで」と声をかけられる。無意味で結構。無意味だからこそ、あなたの人生は自由なんじゃない?わたしたちは何にでもなれる。それってすごいことじゃん。
 人は人生に分かりやすい『意味』を求めがち。でも究極、ひとつひとつの行動には意味なんてないのだ。自分に与えられた寿命を、時に迷いながらもただまっとうすることが、いつか『意味』
になる。だったら、自分のすきに生きればいいんじゃない?この人生は1回きりなのだから。





(10)宇多田ヒカル - Electricity
 言わずと知れた宇多田ヒカル。ノンバイナリーをカミングアウトしたのは2021年だったか。これにはわたしも少なからず影響を受けた。
 ずっと自分をシス男性のゲイだと認識していたが、講師の仕事を重ねるにつれ思い出したことがある。小学生の頃、男だというだけで男の集団に入れられるのに抵抗があった。男とか女とか関係なく、気の合う人と一緒に過ごせればそれで居心地よかったのに。第二次性徴期を過ぎた頃からは、手垢のついた「男らしさ」や「女らしさ」を理由にそこからすこしでも外れようものならば「お前はどっちなんだ」と問い詰められるようになった。それにどうしても慣れなかった。そんなことを、度々思い出すようになった。
 この曲は人と人
が惹かれ合う理由を「電気みたいな何か」と歌う。そこに性別などない。ついには「あなたはどの銀河系出身ですか?」と問われる。
 あのアインシュタインですら娘への手紙に「愛は光 愛はわたしたちの真髄」と書いていた。思考が俗世を超越していても、結局そこへ落着するのだ。それこそがわたしたちの進む道じゃないかしら。





(11)Olivia Dean - Nice to Each Other
 パートナーシップというのは結局、個人と個人の対話とその積み重ねである。お互いの『優しさ』を持ち寄らなければ、とうてい続かないだろう。誰かが提唱するありきたりなHow Toをやってみたところで、うまくいく場合もあればうまくいかない場合もある。そんな当たり前のことを歌った歌。
 「ありきたりなことは全部やった それがうまくいかなったのはあなたも知ってるでしょ わたしたちはもうそんなありきたりなことを言わないって約束できる? 水と太陽 一晩中話すこと 成長するにはそれだけで十分なんだから 今はそれを知っている」 





(12)Benedict Cork - Deep Dive
 イギリスのやはり若いシンガーソングライター。ゲイであることを自身の作品に反映している。
 この曲は、熱烈なラブレターとも言える独白。
 「最も深い青の縁に立って 水面の下に君の何かがもっとあるって知ってる 一歩踏み出したいけど 考えたくはない なぜならぼくはただきみの中の深いところにダイブしたいだけだから きみが望むなら ぼくらは夏を永遠にできるんだ そう ただぼくはきみの中にダイブしたいだけなんだ」





(13)Kaeto - U R Mine
 スコットランド出身でロンドンを拠点に活動するシンガーソングライター。
 「それはわたしに話しかける 息をとめて わたしの肌を感じて 死ぬまで わたしは今夜解放されるの? 今夜逢おう
 今夜食べよう わたしの心を蝕み わたしの喜びを殺す わたしの目をうばう わたしの雑音を消す わたしの部屋を満たす あなたの部屋も わたしのリフレインがわたしの終わりになる それはわたしのリフレイン リフレイン リフレイン」
 ミュージックヴィデオではふたりの女性が林檎を食べている。アダムのいない楽園で。 





(14)Cat Burns - GIRLS!
 イギリスで活動し、レズビアンであることを公表しているシンガーソングライター。黒人女性であることとセクシュアリティを両立させることに困難を覚えたことがあるという。
 「女の子について話せること わたしは女の子についてだけ話したい わたしたちの違うエネルギー 男性らしさと女性らしさのすべてについて いつでも話せる準備ができていることがうれしいんだ」





(15)Sunwoo Jung-A(선우정아)- Star Candy
 ソヌ・ジョンアは韓国のシンガーソングライター。今回のプレイリストで、単純に個人的な推しだから入れたアーティストというのは彼女くらいだろう。クイアではないにしても、クイアのすきそうな要素がたくさん入っている。楽曲にも、音楽にも。わたしが今いちばんライブで体感したいアーティスト。
 「うんざりだ いつも同じだから気分がわるい なんで我慢してるのか分からない」「世界は奇妙な場所 ノイズに満ちた空間 それは何の意味もない 雲がわたしたちの虹を隠した わたしたち自身の色を見せたい」「みんなと同じようにやるという考えは忘れて 誰がわたしに他のものをくれるかというふうに考えよう わたしに自由で楽しい日々を与えてくれるのは誰だろう」「
テレビやオンラインはもううんざり 食べるものの味も全部分かってる なんか別のものがほしい」「それはきみだと思う わたしのスターキャンディー 唇にキラキラ」「心はきみでカラフルに染まる 退屈な日々を超えて 星の光が降り注ぐ きみと行く先々で わたしの足取りは羽根のよう どうかとけないで ただわたしと一緒に居て」





(16)Estelle - Roses
 グラミー賞なども受賞しているイギリスのシンガーソングライター。 
 「わたしのバラがほしい わたしのバラが必要なんだ わたしはわたしのバラを手にする そうする わたしのバラを広める あなたが知ってる場所に そしたらあなたも手にすることができるでしょう」「あなたが人生に注ぎ込む愛を誇りに思う どんな色でも 紫 赤 白 彼らが夜の中でわたしたちの声を否定するとしても 今こそわたしたちが光輝く時です」
 色々な受け取り方のできる歌詞。LGBTQ+の理解啓発を歌っているとも取れるけど、ここで歌われているのはたぶんフェミニズム

 同性婚に関するとある調査に、男性同士のカップルより女性同士のカップルの方が同性婚を求めている当事者の割合が高いという結果があった。元々社会的強者である男性同士のカップルよりも、様々な局面で社会的困難に陥りがちになるのはやはり女性同士のカップルなんだろう。ジェンダーギャップ指数118位である日本のそれが如実に顕れていた。
 今回の選曲で女性の歌が多いのはそこも考慮の上だったりする。





(17)Pete Tong, The Heritage Orchestra, Jules Buckley - Finally feat. Jessie Ware
 イビザ島でのDJやサウンドプロデューサーとして有名なPete Tongがプロデュースした曲。イギリスの歌手でまさにクイアから大人気のディーバJessie Wareがヴォーカルとしてフィーチャーされている。
 「それで元気かい? やっときみに会えた わたしがどんな思いをしてきたかきみは知らないだろう きみを待ちつづけ きみのことを想っていた わたしの旅はきみのところで終わると夢見ていた そして今わたしは楽園を知っている」





(18)Pet Shop Boys - Wedding in Berlin
 ゲイアンセムでおなじみのPet Shop Boys。有名な「Go West」や「It's a Sin」より、わたしたちの場合はこちら。2023年のマリフォーフロートでもこの曲を選曲していたのだけど、結局、この曲が流れる前にゴールしてしまった。今回こそリベンジなるか。
 「わたしたちは結婚するんです なぜならお互いに愛し合っているから わたしたちは今日結婚します なぜってそろそろいい頃合いだから 遅れることなく実行します わたしたちは結婚するんです たくさんの人がそうしてるよ 異性愛者か同性愛者かなんて関係ないよ わたしたちは結婚するんだから わたしたちは一緒になります 永遠に」





(19)I do! ~ Marriage for all! Japan!!
 今年公開された同性婚法制化を求めるためのミュージックヴィデオです。なんと、曲も映像も今回のために作り下ろされました。「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告カップル3組が取材や実際の撮影に関わっております。もちろん、わたしとパートナーも。
 数年前から日本版の同性婚アンセムがほしいと思っていたので、願ったり叶ったりでした。音楽を担当した里ロビンくん、ヴォーカルのZineeさん、ダンサーのAya&Manaさん、プロデューサーのモンティ、スポンサーのダグラスさん。直接交流ができたのはその辺りの方たちでしたが、とてもよい経験をさせていただきました。ありがとうございました。
 欲を言えば、この曲にアーティスト名を付けて各種サブスクでも公開していただければ言うことないのですが。もっともっと色んな人たちに聴いてほしいな。






と言うわけで、今回のプレイリストはここまでです。翻訳や解説でニュアンスの違っているところがあったら、こっそり教えてくださいね。限られた情報を頼りに調べながら書いたので、自信はあまりないです。
 たぶんだけど、他のフロートこそノリノリのゲイアンセムを流すと思うので、こちらはあえての休日感を演出しております。まったり歩いていただければ幸いです。
 21世紀のこの後に及んで、戦争やLGBTQ+へのバックラッシュやヘイトクライムが世界中で起こっています。「Happy Pride!
」どころじゃないという声もあちらこちらから聞こえてきます。しかし、先人が何度も何度も試行錯誤しながらここまで大きくしてくれたデモ行進の機会です。活用できるものは大いに活用させてもらおうじゃないですか。
 また、同性カップルの高齢化が進んでいます。同性婚法制化もすでに待ったなしの状況になっています。わたしたちに希望を託してくださっているたくさんのカップルの顔を思い浮かべながら、しっかり歩こうと思います。
 裁判もすでに舞台を最高裁判所に移しております。2025年の今年こそ、立法府がまっとうに仕事をしてくれたらと切に願っております。注視という名のやってるフリはもうたくさんです。



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