2023-04-23

田中昭全選曲のプレイリスト「結婚の自由をすべての人に」のライナーノーツ

  2023年4月22日(土)〜23日(日)に東京都渋谷区の代々木公園にて「東京レインボープライド2023」が開催されます。川田中家のふたりは、マリフォーフロートで歩きます。
 今回は田中が、その選曲を担当させていただきました。せっかくなので、プレイリストとその曲解説をここに掲載します。



◉田中昭全による「結婚の自由をすべての人に」プレイリストとライナーノーツ◉



(1)We Are - Jon Batiste
 「ラブ・ライオッツ(愛の暴動)」という人種差別の抗議運動に、音楽を通して参加しているジョン・バティステ。2021年に発売され、グラミー賞では年間最優秀アルバムとなった「We Are」の表題曲がこれ。「私たちはひとりじゃない」「私たちは選ばれたひとり」という歌詞は、セクシュアルマイノリティの当事者にも当てはまる。曲の途中を部分的に編集しているので、オリジナルを聴きたい方はぜひ自分で聴いてみてね。





(2)Same Love feat. Mary Lambert - Macklemore & Ryan Lewis
 2015年6月にアメリカで同性婚が合法化された際、色々なところで流れていた同性婚アンセム。ラッパーのマックルモアは、HipHop界に根強く残るホモフォビア(同性愛嫌悪)を危惧してこの曲を書いた。彼自身は当事者ではないが、叔父がゲイの当事者なのだそう。ミュージックビデオには、彼の叔父とそのパートナーも出演している。
「紙切れ一枚ですべてが変わるわけではないけれど 何かを始めなくちゃ / 法律が私たちを変えるんじゃなくて 私たちが自ら変わらなくちゃ」そんなメッセージが込められている。
 サビのボーカルはメアリー・ランバートという、これまたレズビアンであることを公表しているシンガーソングライターによるもの。後にソロで「She Keeps Me Warm」というボーカル曲として同じテーマを歌っているので、気になる方はそちらも聴いてみてください。





(3)Fighting Pose - DAOKO
 特に同性婚についての歌というわけではないのだけど、「安心しようにも素材がない / 世迷言で濁る細胞 毎秒あっおー / ファイティングポーズを取ってみても 会心の一撃でないの」という箇所が、ここのところ続く政府関係者の差別発言とそれに対して警戒してしまうわたしたちについてを歌っているようで、人ゴトとは思えなかった。





(4)Silly Love Song - Wings
 邦題としては「心のラヴ・ソング」として有名なポール・マッカートニーによるWingsの曲。各方面から「ポールは馬鹿げた(Silly)ラブソングばっかり作っている」と批判されたポールが、「とるに足らない(Silly)ラブソングの何が悪い!」と作ったとされる。「I Love You」という言葉がこれ見よがしに連呼される理由。
 ポールの妻であるリンダ・マッカートニーは写真家で、夫のポールと音楽活動をしていた。この曲でもしっかり、デュエットをしている。まさにお互いへ贈るラブソング。彼女は、仕事の写真とは別に、ポラロイドカメラで撮った家族写真をたくさん残しているのだけど、それがほのぼのしていてとても素晴らしい。数年前に回顧展を見て、大判の写真集をすぐに買ってしまったほど。スナップショットを残しがちな、我ら川田中家とも通じるものがあります。





(5)Sugar Pai Honey Bunch Marching Band - 鈴木雅之
 こちらも特に同性婚とは関係ないのだけど、元ピチカート・ファイヴの小西康陽作詞作曲による多幸感あふれるマーチングポップソング。
 わたしたちは香川という地方でたまたま出会って、たいそうなことに今は同性婚を求めて声を上げているわけだけど、若いLGBTQ+当事者からたまに「そんな伴侶とどうやったら出会えるんですか?」と相談されることがある。そんな人には「恋はあせらず、って言葉どおり 大きくかまえていればいいさ」ってこの曲の歌詞を贈ります。





(6)Same Thing feat. Superorganism - 星野源
 この曲を入れようか迷ったのは、その歌詞。あまりこのましくない表現の単語が歌われる。しかし、歌とは結局『何を言っているか』なので、そちらを優先した。実際、その言葉をぶつけたくなるほどやりきれない出来事は誰にでもある。わたしたちのセクシュアリティに関して差別発言がなされるたび、わたしたちは心から憤慨する。そうやって感情を吐き出さなくては、やってられないのだ。しかし、そればかりしているわけにもいかない。怒った数分後には、恋人と美味しいワインを飲んでいたりする。日常生活って、そういうもんだよね。
 「本当の話をしようよ わかってくれるはず / 落ち込むこともよくあるけど / 犯した間違いも 食べてきた愛も 一緒に生活してるだろ」
 星野源は、社会的なスタンスをきわめてさりげなく表明する。『家族の多様性』について触れたり、ミュージックビデオではゲイカップルやレズビアンカップルの描写もあったり。紅白歌合戦に出演した時は、赤でも白でもなくピンクの衣装を着ていたっけ。アライとしてのはっきりした表明はないが、そこかしこにヒントをくれているように思う。





(7)陽の当たる大通り - Pizzicato Five
 日本のバンドであるピチカート・ファイヴは、1990年代初頭、日本より海外で評価されていた。ボーカルの野宮真貴が着るキッチュな衣装やドラァグクイーンのようなヘアメイク、最先端のクラブサウンド、ライブでのポップな演出などが、海外ゲイたちのクイア心をわしづかみにしたらしい。日本で本格的に流行したのはその後だったようで。いわゆる、逆輸入型アーティスト。田中も後追いで、1996年頃になってようやく聴いた。
 この曲を初めて聴いた時、これはまるで自分のためのテーマソングじゃないかと思った。いつかはこんな日がやってきたらいいなあ、と。実際にやってきた。そして、しっかり「歩きだして」いる。アステアみたいに、ステップを踏んで。
 小西康陽による内省的な歌詞は、その後の作品も自分の感性に訴え続けた。渋谷系ともてはやされた瀟洒なサウンドの影に、確かな叙情を見い出した最初の曲だったように思う。





(8)アナタトイキル - かの香織
 もう他に何も言うことがないくらい、『誰かと切実に生きること』を歌詞にしたためている。相手が同性でも異性でも、他人と人生を共にするって結構な労力なんですよね。泣いたり笑ったりしながら、それでも相手を信じる。そんなことを、この1曲の中で全部言ってくれてる。昔から大すきな曲です。



(9)Something About Us - Duft Punk
 ダフト・パンクはフランスのエレクトリックポップスデュオ。この短い曲の短い歌詞に、愛する人への想いが込められている。くり返し歌わないところもまたいさぎよい。まるで、愛する人に向けた手紙。





(10)エイリアンズ(Lovers Version)- 堀込泰行
 キリンジ名義で発表した名曲「エイリアンズ」を、作詞作曲者の堀込泰行がセルフカバーしたバージョン。
 この曲には不思議な都市伝説がある。この歌詞は、ゲイカップルについて歌っているのではないかというもの。作詞作曲者の堀込自身が想定していたわけではないと思う。しかし、歌詞から読み取れるある種の劣等感みたいなものが、そう思わせるのかもしれない。
 エイリアン(英語では在留外国人を指す)という言葉を共通項として次につなげたのがまさにスティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」で、こちらはまさに実在するゲイ当事者についてを歌ったもの。そういうところからも、この曲がそう印象づけられているのかもしれない。





(11)Englishman In New York(My Songs Version)- Sting
 言わずと知れた名曲で多くの人がカバーしているけど、誰もこの歌詞の意味なんて深く考えないんじゃないかな。ゲイであることを公表していたイングランド人の作家クエンティン・クリスプについて歌ったもの。ロンドンからニューヨークに移住した彼は、まさに在留外国人(エイリアン)だったわけで。
「彼らがなんと言おうとも、君は君らしく居るんだ。」そんなことを歌っている。
 偶然なんだけど、前曲の「エイリアンズ」とこの曲はアレンジまで似ている。カットインで失礼。





(12)Green Eyes - Alro Parks
 アーロ・パークは、バイセクシュアルであることを公表しているイギリスの若いシンガーソングライター。この曲も、10代のうまくいかなかった恋愛について歌っている。同性であるということから、誰にも公表できなかった恋愛。そのせいで2ヶ月しか続かなかった。それでも、あなたの心は輝いているとアーロは歌う。





(13)Womxnly 玫瑰少年 - Jolin Tsai 蔡依林
 ジョリン・ツァイは台湾のポップ歌手。この歌は、「女っぽい」という理由で2000年に暴行を受けて亡くなった15歳の台湾の少年について歌っている。
「トゲのないバラはどこにある? / 美しくなることが最強のリベンジ / 美しく咲き誇ってこそ反撃だよ / 誰かのために 自分を変えないで / あなたは貴方 もしくは貴女 どっちでもいい / 誰かが心を込めて愛してくれるから」
 民主的な決断で2019年に同性婚が始まった台湾でも、過去にはそういう世界だったのだと改めて思い知らされた。





(14)Cure For Me - Aurora
 世界保健機構(WHO)は1991年に国際疾病分類から「同性愛」を除外した。このことにより、治療と称しては拷問まがいの治療を受けさせられていた同性愛者たちは、長い不遇の時代をようやく終えることになる。しかし、根強い差別意識は21世紀になった今でも続く。治療ができると信じ転向療法(コンバージョン・セラピー)の施設に我が子を送り込む親さえ居る。
  Auroraは、若者の間でカリスマ的に支持されているノルウェーのシンガーソングライター。自身もバイセクシュアルであることを公表している。この曲はまさにそれをテーマに扱い、「わたしに治療なんか必要ない」と何度もくり返し歌われる。





(15)Bridge - YonYon
 日本と韓国にルーツを持つDJであり、シンガーソングライターであり、ラッパーであるYonYonが、その多文化的なバックグラウンドを踏まえ平和を願う気持ちを歌った曲。
「守るべきものがそう 目の前にある / 皆の笑顔 そのピースサイン / 見渡す限り続いていく空の上 / 大きな虹を作ろう / I just want to be free」
 セクシュアリティとは直接関係ないとはいえ、新世代のクリエーターとして歌詞に「虹」というキーワードを含めたのは、LGBTQ+のことも視野に入っていたのではないかと勝手に思っている。





(16)まるごと - CHAI
 CHAIは、昨年の東京レインボープライドでもライブを行って会場を沸かせたバンド。この曲は、アロマンティンクやアセクシュアルをテーマにしたドラマのために作られたそうなのだけど、田中はドラマそれ自体は見ていない。しかし歌詞が素晴らしかったので、ここに選曲した。
「違いさえも まるごと愛せたらなあ / I'll turn this anger into something beautiful」





(17)Superpower - SIRUP
 シンガーソングライターのSIRUPは、音楽フェスの会場で『日本で同性婚ができないのおかしいよね。ちゃんと変えていこう』という主旨のMCを行った。より良い社会に変えていこうというその姿勢は、彼が作るその音楽のそこかしこにも顕れている。
「Everybody's waiting around For the new normal / 誰もが笑顔取り戻せる日を 話はそれからと / 景色を変えよう my friend / Trying our best / We gotta dance」
 社会的なメッセージは、彼自身のSNSでも日常的に発信される。アーティストの表明するスタンスが、誰かのエンパワメントにつながる。





(18)Pose - MRSHLL
 MRSHLLは韓国にルーツがあるアーティスト。アメリカはカリフォルニアの郊外に生まれ育ち、韓国の国民的オーディション番組に出演したことから歌手としての本格的なキャリアが始まる。2015年にはメディアを通してゲイであることをカミングアウト。ワールドワイドな活動を行いながら、ニュートラルに自身のセクシュアリティを楽曲に反映させている。
 この曲はMRSHLLがLGBTQコミュニティのために書いたもの。自分らしく生きることの大切さを歌っている。サブリミナル効果で「君も僕もゲイ!ゲイ!ゲイ!」って聴こえるように作った箇所があるそう。





(19)Sweet Life - Superfruit
 今回の選曲で、唯一パートナーの川田が提案してくれた曲。Superfruitというアーティストについては、実際にほとんど知らない。ミュージックビデオを見る限り、男性ふたりによるボーカルデュオらしい。「ゲイ受けしそうな」という後付けも必要かもしれない。
「ずっと待ってるの / 待ちすぎじゃない / どこへ行ったらいいか教えてくれる誰かや何かを / でも誰も教えてくれない / きみ自身が自分で見つけるんだよ / ひとりで踊るんだから このスイートな人生を」





(20)Free Yourself - Jessie Ware
 イギリスのシンガーで、まさに今、クイアたちの歌姫(ディーバ)となろうとしているアーティスト。そのミュージックビデオには、彼女の仲間たちの様々な人種・様々なセクシュアリティ・様々なバックグラウンドを持つ人たちが登場する。
「あなたには名前がある 数字なんかじゃない / 並はずれた色を持っている / 物影にかくれてちゃダメ / 自分を解き放って あの山のてっぺんを目指して突き進まなくちゃ / 自分自身を喜ばせなくちゃ / そんなにいい感じなら やめちゃダメ」





(21)Wedding in Berlin - Pet Shop Boys
 言わずと知れたペット・ショップ・ボーイズは、1980年代からのキャリアがあるイギリスのポップグループ。ボーカルのニールは1994年にゲイであることをカミングアウトしている。
 この曲は知り合いの結婚式のために作った曲をリアレンジしたものだとか。メンデルスゾーンの「結婚行進曲」がまんまサンプリングされている。歌詞もまたシンプル。
「わたしたちは結婚した / なぜなら愛し合っているから / わたしたちは今日結婚した / なぜならそうすることがふさわしいって思ったから / 遅すぎることなんてないんだよ / みんなも結婚しようぜ / ストレートでもゲイでも関係ない / わたしたちは共にある 永遠に」







 今回は曲間に、「愛に制限はない。結婚の自由を今こそ。」というキャッチコピーを日本語と英語の両方で入れました。これは、川田中家の友人でアメリカ在住のゲイカップル、TakaさんとJerroidによるものです。

 彼らもまた、同性婚がない日本では配偶者ビザが出ないという制度の不備によって住む場所の選択肢を最初から奪われています。日本での婚姻平等について、アメリカから応援してくれています。
 東京レインボーパレードはLGBTQ+を祝福するお祭りではありますが、田中はデモの一形態だとも思っています。今回、彼らの肉声を使わせてもらうことで、それを打ち出せるのはとてもうれしいです。
 パレードに参加するみなさんは、東京の街を歩きながらぜひ声に出してみてください。


「愛に制限はない。結婚の自由を今こそ!」
「Love without limits. Marriage equality now!」

注)英語は、ラヴ / ウィザウ リミッ / マリジ イクォリティ ナウ の3節で発音すると良いそうです。
 

追記)
 プレイリストは81分用意していたのですが、パレード自体が短かったので街頭では半分ちょっとの46分までしか流せませんでした。ちょうどStingの終わりくらいかな。以降の曲も、街頭で流せたら気持ちいいだろうなあと思って選曲していたのだけど……。
 仕方がないので、より多くの人に聴いてもらえるようにYouTubeの方にもプレイリストを作りました。かの香織さんの「アナタトイキル」のみ見つからなかったので不完全版ですが。これをきっかけに、各アーティストの音源をご自身でも聴いてみてください。お気に入りの曲がたくさん見つかるはず。


田中昭全による「結婚の自由をすべての人に」プレイリスト(YouTube版)
https://youtube.com/playlist?list=PL7Rvj0LnnmVrcZh1Qwe3bmvwzkdR9nyhq





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