2020-10-11

#私たちはここにいる

 
 足立区の白石正輝区議会議員が9月の区議会一般質問で、「LだってGだって法律で守られているというような話になったんでは、足立区は滅んでしまう。」というような発言をしたらしい。もう、どこから突っ込んでいいか判らない。全部が間違った認識の上で、こんなことを悪びれもせず言う政治家がいまだに存在するとは。開いた口が塞がらないことはこのことだ。
 いや、もしかしたらこんな認識の人は日本中にまだまだ居るのかもしれない。78歳という年齢にもなって、おのれの人権感覚が欠如していることにも気づけないとは。指摘してくれる人も周囲に居なかったんだろう。心底、不憫な人だなあと思う。
 こういう発言を、これまでにも何度か否定してきた。 LGBTについて理解が深まれば深まるほど、前時代的な認識から更新できてないままの人がこうやって差別的な主張をむし返す。そしてぼくらは何度も何度も、それは違うよと丁寧に反論をするのだ。
ーーーーもう、うんざりなんですわ。ちゃんと自分で勉強しろ。特に為政者。あんたたちはぼくらの税金でごはん食べてるんだろ?勉強できてないなら、せめてその話題に触れてくれるなよ。ーーーー
 うんざりしながらもぼくはまた、こうして反論を記すのだ。

 数年前からLGBTに関する講師として、色々なところに出向く機会が増えた。しがない高卒のぼくが、大勢の人の前で講演をするなんてなんだか奇妙な感覚だ。しかし、ひとりでも多くの人に知ってもらいたい。そういう気持ちで、毎回丁寧に取り組んでいる。

 ぼくとパートナーはゲイカップルであることをオープンにしている。香川県の、さらに田舎である三豊市にあって、名前も顔も出して声を上げている。それは、とても希少なケースである。他のLGBTの人たちがなぜそれをしないかというと、冒頭に書いたような認識の人にまた拒絶されたり、否定されたり、揶揄されたり、仲間外れにされたりするのがこわいからだ。
 実際、オープンにしていなかった時代には、あちらこちらからそれを揶揄する声が聞こえていた。世間の『男らしさ』からすこしでも逸脱している人間を指差しては、『普通じゃない』と負の烙印を押す。ぼくがゲイであることを知らない人から、男同士のそれを嘲笑する話として聞かされたことも多々ある。そういうふうに、大切なセクシュアリティという領域を土足で踏みにじられる経験は、多くの当事者が経験しているのだ。そういう人たちが、この社会に安心できる居場所を見出せると思う?

 「LGBT」という言葉が市民権を得たのは、いつぐらいだろう?気がつくと、ネットでも新聞でも雑誌でも、セクシュアルマイノリティを指してLGBTと書くことが増えた。(厳密には間違い。イコールではない。)
 市民権を得た言葉は、たくさんの人が使えば使うほど、間違った使い方をされる機会も増える。また、ひとつの属性の中にも色々あるのに、ステレオタイプなロールモデルしか想定しないというケースも増える。
 そして冒頭の白石議員。こんなおじいちゃんが「L」とか「G」とか言うんだから、「LGBT」という言葉が市民権を得ているのは紛れもないことだけど、だからこその間違いがここにも大量に含まれている。
 白石議員は、子どもを産み育てることについての答弁でこの発言に至ったらしい。『BとTは生まれつきだけど、LとGは生まれつきでないから増える』んだそうだ。そしてその上で、『LとGを法律で守ったら、足立区が滅びる』と来たもんだ。すごい(もちろん、ほめてない)。
 まずは、『LとGが増える』ということ。色々な統計が指し示すのは、どの時代にもある割合で「LGBT」の人たちは居たし、もちろん今も居る。自然の摂理なのか、その割合はいつの時代も大して変わらないのだそうだ。つまり、感染症のように、または流行のように、それが爆発的に増えたりすることはあり得ない。もしあなたのまわりで増えたように感じるのであれば、公表する人が増えただけだったり、メディアが取り上げる機会が増えただけのこと。絶対数が大幅に増えることはない。
 生まれつきかそうでないかは、大した問題ではない。そんな遺伝子は発見されていないし、科学的な解明は今後もされないだろう。政治とは、それぞれの人がそれぞれに望む生き方を保障するものであって、特定の属性を切り捨てるものであってはならない。だから、LもGも法律で守られるべきだ。そして白石議員は、『法律で守られること』を「パートナーシップ制度」のことだと思っているらしいが、地方自治体が施行する「パートナーシップ制度」には極めて限定的な効力しかない。何度も何度も説明しているが、国が「同性婚」を実現しない以上、法律で守られていることにはならない。
 また白石議員は、少子高齢化をして『子どもが増えないこと』に問題意識を持っているようだが、元々子どもを持つ機会の少ないLGBTに期待するよりも先に、なぜ子どもを持つ機会の多い異性愛者の夫婦が生み育てやすい環境となるような施策にこそ言及しないのだろう。LGBTに責任転嫁させたいだけではないのか?
 また、少子化を心配している割には、15歳からの若者の死亡率第一位が自殺だったりすることや、児童虐待の相談件数が年々増え続けていることなんかには言及しない。ほんとに心配しているのかねとつくづく思う。

 これは、『産めよ増やせよ』な白石議員の術中にはまり込むような気がしてあまり言いたくはないのだけれど、LGBTの人たちの中にも子どもを育てているケースはある。それはかつて異性と結婚していたけど、後から同性愛者・両性愛者と自覚した人であったり、同じくトランスジェンダーであると自覚する前に産んでいたケースだったりする。最近では、海外に行って代理母出産で子どもをもうけるケースや、友人から精子提供を受けて人工授精をするケースなどもある。何らかの理由で親から離れて暮らす施設の子どもを里親として迎えているケースもある。
 しかし、法律が彼らを「家族」とは認めないことから、その子どもは常に不安定な立場に追いやられている。ほんとうに子どものことを想うのであれば、なぜ彼らのために声を上げないのだろう。こういう発言をする議員が出てくるたび、いつも不思議に思うのだ。
 結局は、誰かを踏みにじって自分の主張を正当化したいだけなのだろう。それは、志ある政治家のすることではない。その辺の、じいさんばあさんが井戸端会議しているのとはわけが違うのだ。権力の使い方をひとつ誤ると、少子化どころの話ではなくなる。ちゃんと自覚を持って、政治をしてほしい。



 今回、唯一の救いだったのは、メディアがこぞってこの差別発言を取り上げたことだ。わたしたちは声を上げているけれど、そのひとつひとつはか細い。何かを変える力など、ないに等しい。それでもSNSは、自分ごととして声を上げるのに最適なのだ。
 とあるレズビアンカップルが、「私たちはここにいる」というタグをつけて自分たちの写真を投稿していた。そこには、差別発言を懐柔するようなコメントも添えられていた。ぼくは、怒りのエネルギーを別の形に昇華させたその書き込みに、ひどく感銘を受けた。それで、ぼくも後に続くことにした。


 もちろん、これには語弊もある。パートナーシップ制度があったって、法律に守られているとは言えない。白石議員の言葉に準じて、こう書いた。自治体がLGBTに配慮したからと言って『滅びる』なんてことはあり得ないんだと。そんなにおそれなくても大丈夫だと。

 時代が変わる潮目には、その変化を怖いと思う人もあるだろう。しかし、あなたが学べば学ぶほど、世界はそんなに単純じゃないということも理解できるようになるし、だからこそ多様な生き方を肯定するべきだとも気づく。どうか、人生の果てまで学びつづけてください。それはぼくもまたそうなのだと、強く心に思う。





「足立区滅びる」発言に「滅びないから安心して」。LGBTQ当事者たちが #私たちはここにいる で思いを投稿

https://www.huffingtonpost.jp/entry/we-are-here_jp_5f7d1e37c5b61229a0590470

 


0 件のコメント:

コメントを投稿